MENU

TOPICS & NEWSトピックス

「ピラティス」はNGワードだった?

―商標権をめぐるアメリカの訴訟―

いまや当たり前に使われている「ピラティス」ということばが、アメリカで使用できなかった時期があったことはご存じでしょうか?
30年ほど前、「PILATES」が商標として登録されたことで権利者に独占され、権利者以外の人がそのことばを使うことが制限されていたのです。
ピラティススタジオであるのに、「ピラティス」ということばを避けて、そのエクササイズを宣伝したり、セッションを実施したりしなければならない不都合はどれほどだったことでしょう。
ことの結末は、大手のピラティススタジオと権利者の間で訴訟が起こり、判決の結果、商標権が無効になりました。
 
ピラティスのあまり知られていない意外な事実ですが、誰でもそのことばを自由に使えるようになるまでにはインストラクターたちの戦いがあったのです。
商標登録されてから訴訟が発生し、判決が出るまでの経緯をご紹介します。
 

1.「ピラティス」ということば

そもそも「ピラティス」というエクササイズ名は、そのメソッドの創始者、ジョセフ・ピラティスの名前を由来にしています。
ジョセフ・ピラティス(ジョー)自身は、自分が開発したエクササイズを「コントロロジー」と呼んでいました。
ジョーが亡くなり、時を経て彼のエクササイズは自然と「ピラティス」と呼ばれるようになり、その呼び名が定着したのです。
 

2.「PILATES」の商標登録と権利者の主張

アメリカのピラティススタジオであるPilates社の代表、Sean Gallagherは、アメリカ合衆国特許商標庁に「PILATES」を商標登録しました(1995年)。
商標登録されるとすぐにSean Gallagherは、自分以外のピラティスインストラクターが「ピラティス」ということばを無許可で使用してはならないとする法的手続きを取りました。
 
Sean Gallagherの主張は、ジョーの助手であったRomana Kryzanowskaのみがジョーの正式な後継者であり、彼女からAris Isotoner、Healite社、そしてPilates社へと商標権が順に継承された、ということでした。(※アメリカの商標制度は登録制度もありますが、登録しなくても使用によって権利が発生する使用主義も採用しています。)
さらに、ジョーから指導を受けたほかの指導者は、まがい物のピラティスを教えている詐欺師だと、大胆な主張も行いました。
 

3.「PILATES」が商標登録されたことによる弊害

Sean Gallagherが商標権を主張したことで、ほかのピラティスインストラクターが、ピラティスを生業としながら「ピラティス」ということばを商業上使用してはいけない、という理不尽な状況が起こりました。
ピラティススタジオが自社のサービスを説明する場合、「ジョセフ・ピラティスが開発したメソッドに基づいたエクササイズ」というような、非常に回りくどい言い方をしなければならなかったのです。
「ピラティス」ということばを使用したい場合は、Sean Gallagherに使用料を毎年支払わなければなりませんでした。
 
このことは、単にピラティスインストラクターやスタジオが不都合を被っただけでなく、ピラティスというエクササイズが世間に浸透するのを阻害し、ピラティス界全体にとっての不利益になりました。
 

4.訴訟の発生

ピラティス機器を数多く製造していたCurrent Concepts社(1999年よりBalanced Body社に社名変更)は、Sean Gallagherの要求を拒み、商標の使用料の支払いもしなければ、「ピラティス」ということばの使用を控えることもしませんでした。
 
それによりSean GallagherはCurrent Concepts社とその代表のKenneth Endelmanを商標権侵害で訴えたのです(1996年)。
被告であるKenneth Endelmanは誰かが立ち上がらなくてはならないと、ピラティス界を背負って訴訟に臨みました。
 

5.訴訟の結末

4年に及ぶ裁判の結果、登録商標「PILATES」は無効であるという判決が下されました(2000年)。
その理由はまず、「ピラティス」ということばが、ヨガやエアロビクスのようなエクササイズの種類を示す一般的な名称であり、商標権として保護されうる対象ではないと判断されたということでした。
裁判において、ジョーの教え子であるRomana Kryzanowskaは、自分の生業を尋ねられたとき、「ピラティスを教えています」と回答しました。この発言が、判決に決定的な材料となりました。
なぜなら商標は、ブランドや商品、サービスの名称を保護するものであり、エクササイズという「モノ」の一般的な呼び方は、商標の保護の対象とはならないからです。
 
興味深いことは、Sean Gallagher側が「ピラティス」という語の一般的な名称としての使い方を避けるために、訴訟でそのエクササイズを表現するのに、「ジョセフ・ピラティスの教えとメソッドに基づいたエクササイズ」など、持って回ったような奇妙な言い方をしていたということです。裁判官は冷静にそれを指摘しました。
「ピラティス」がエクササイズの名称に過ぎないという事実は、感覚として誰もが分かっていたことですが、それを立証するのに4年もの歳月を要しました。
 
無効判決がなされた2つ目の理由は、Sean Gallagherは商標権をHealite社から買い取ったと主張しましたが、Healite社はその3年前から営業を停止していたことです。
アメリカにおいて商標は、「グッドウィル」が付随して初めて成立するものとされています。グッドウィルとは、営業の知見や工夫により商品を魅力的に見せ、顧客を引き付ける力のことです。アメリカでは、グッドウィルを伴わない場合には商標を譲渡することができないと規定されています。
Sean GallagherがHealite社から商標を受け継いだとする時点で、すでにHealite社は営業していなかったことからHealite社の商標にグッドウィルはなく、したがって商標は譲渡されなかったと見なされました。
 
さらに裁判所は、Sean Gallagherの指導者のみがピラティスを教える資格があるとする彼の主張を退けました。ピラティスの創始者であるジョーが直接教えた弟子は多く、ジョーは生前、ピラティスを推進し世の中に広める活動をしており、そのメソッドの名前の使用を制限することはジョーの意志に反するものであると結論づけました。
 

6.判決の影響

この裁判所の判決により、Sean Gallagherに使用料を払わずとも「ピラティス」ということばを誰もが自由に使えるようになりました。
「ピラティスを教えている」と堂々と言えるようになったことで、ピラティススタジオを開設することも以前より容易になりました。
それは、ピラティスインストラクターやスタジオに利益を与えただけでなく、ピラティスそのものが世の中に大きく広まる後押しとなったのです。
ピラティスの現在につながる重要な出来事でした。

はじめての方は、
お気軽にトライアルレッスンから

「運動不足で自分にできるのか心配...」
「ついていけなかったらどうしよう。」
はじめてで不安な方でも無理なくご参加いただけますので、お気軽にご予約ください。

体験レッスンを予約する